先週は『酸と塩基』について学習しました。
酸・塩基は多領域に渡って使用される概念ということで、時間をかけて理解するように注意しました。
ずばり、この単元で気をつけなければならないことは、抽象度が高い「酸・塩基」という概念を、複数の定義を把握することで具体化し、目的に応じてそれらの定義を使い分けることでした。
酸と塩基の定義
酸と塩基の定義は、時代の要請に伴い拡張されつつ、依然として過去に打ち出された内容も失われず機能している点に深みがあります。

定義が多層構造であることは、それだけ応用範囲が広く便利だということでしょう。
しかし同時に、目的に応じてどの層の定義に着目するかが鍵となり、間違った鍵を使えば目的達成の扉は開かないことになります。
例えば酸と塩基の中和反応を理解する際に、アレニウスの定義に着目しなければ、反応の過程を追っていくことはできません。
この記事では、このような多義語についてどのように対応していけば良いか、異なる単語を例に出して考察していくことにします。
「ロック」が意味するもの
酸と塩基のように、複数の意味を包括している構造を持つ言葉として、音楽ジャンルの「ロック」が想起されます。
「ロック」はそのカテゴリー内において、ブルースやパンク、プログレッシブ、ハードロックなど、具体的な様式を包摂する語として機能しています。
また、クラシックや民族音楽などと、音楽ジャンルを区別するための概念としても「ロック」が使われますし、さらには考え方や生き方など、哲学的な意味で用いられる、より広範な「ロック」の使い方もあります。
「ロック」が意味する内容を、下図のように構造化してみます。

このように「ロック」は多くの意味を包括しているわけですが、やはり酸と塩基の定義のように、目的に応じてどの層に位置する「ロック」の概念に着目するか考慮しなければ、目的を達成できなくなる場合があります。
例えば、対人コミュニケーションの円滑化を目的として、「ロック」を会話の中で使ってみましょう。
一緒に楽曲アルバムを制作するロックバンドのメンバー間での会話では、
「1曲目は勢いのあるパンクな感じで初めて、徐々に実験的なプログレッシブのテイストも織り交ぜながら、最後はブルージーに渋く締めるロックなアルバムにしよう」
というように、アルバムのコンセプトに関わる意思疎通を図るため、様式を意識した「ロック」を用います。
この場面でジャンルや考え方を意味する抽象度の高い「ロック」に着目したら、メンバーの意見はまとまらず、アルバム作りは永遠に終わりません。
次にクラシックを演奏する女性ピアニストとの会話をイメージしてみます。
「ロックってうるさいだけの音楽だと思われるかもしれませんが、クラシックとは異なる手段で感情表現をしているだけなんです。ベートーベンの感情表現に共感するロック好きって結構多いですよ」
というように、先ほどより抽象度の高い、音楽ジャンルとしての「ロック」を使ってコミュニケーションを図ります。
この場面で具体的なロックの様式を話に持ち出しても、知識がない相手は「?」となってしまうでしょう。
さらに、音楽と縁のない会社の先輩との会話の場面では、
「いやー、あの取引先の部長はロックしてますね。今までの慣習にこだわらず新しいルールを作っちゃうんですから」
というように、物事に対する態度などを表す、広義の意味での「ロック」を引用し、情報を伝えます。
部長の人柄について、ロックの様式を持ち出して精度の高い具体的な説明をすることもできますが、この場面においてはナンセンスでしょう。
考察
このように、当たり前かもしれませんが、多義語を扱う場面では、状況に応じてどの意味にフォーカスするべきなのか、今一度意識することが重要だと思います。
抽象度の高い意味に着目すれば、より広範な内容を察することができますが、局所については十分な情報が無いため理解が難しくなります。
「この特許明細書に出てくる酸と塩基は、どの定義に基づいて利用されているのだろう?」
ここで定義の選択を間違えてしまうと、明細書のストーリーを正確に追っていけなくなるはずです。
また前提として、多義語の意味を網羅的に把握していなければ、意味の区別すらできません。
以降の学習で抽象度の高い概念に出くわした際は、上記の点に注意を払い、扱えるようにしていきたいです。