先週は「酸化還元」「電池」について学習をしました。
「電池」の領域は、これまで学んできた理論化学の基礎を寄せ集めた、厚みのある内容でした。勉強は積み重ねだということがとてもよく理解できます。
昨今、「リチウムイオン電池」の開発により、吉野彰さんがノーベル化学賞を受賞したように、現在のテクノロジーにおいても電池は重要な位置を占めています。
時代の変遷に応じて電池の技術内容もブラッシュアップされていくわけですが、この記事ではそのファンダメンタルである、「ボルタ電池」「ダニエル電池」「鉛蓄電池」に着目し、技術の改善の流れと、それぞれの特徴を時系列でまとめ、復習していきたいと思います。
ボルタ電池 発明:1800年
ボルタ電池は、希硫酸水溶液に亜鉛板と銅板を浸し、それぞれを導線で繋いだ構造の電池。

構造
システム内の酸化還元反応
負極 | Zn → Zn2+ + 2e- (酸化されている=還元剤) |
正極 | 2H+ + 2e- → H2 (還元されている=酸化剤) |
全体 | Zn + 2H+ → Zn2+ + H2 |
負極と正極の判断
Zn とCuを導線でつないだ場合、相対的にイオン化傾向が大きいZnが陽イオンとなり電子を放出する。その電子は導線を伝い、Cuに受け取られる。
ただしCuは金属のため、電子と反応して陰イオンになることはなく、電子導体として、水溶液中のH+へ電子を渡す機能を果たす。
よって、Zn側が電子を放出する負極となり、Cu側が電子を受け取る正極となる。
またCu 側で Cu + 2H+ → Cu2+ + H2 の反応が生じ、Cu2+が電子と反応することも想像できるが、CuはH2よりイオン化傾向が小さいので、この反応が自然に起こることはない。
システム内のイオン化傾向:
Zn > H2 > Cu
このシステムではZnが還元剤、H+が酸化剤として酸化還元反応が生じるため、この2種によるイオン化傾向の差が起電力となり、電流を流す。
起電力は下記のイオン化電位を参照し、
Zn | 約 – 0.76V |
H2 | 0.00V |
により、このシステム内では理論上、約0.76Vの起電力が得られることになる。
起電力により送り出された電子は負極から正極へ流れるが、この向きは電流の向きとは逆になる点に注意。
このシステムの電池は、酸化還元反応により生じたエネルギーを、導線内の電子の移動による電気エネルギーとして取り出す装置である。(電気エネルギーによって豆電球は光る)

留意点
分極
ボルタ電池は分極と呼ばれる現象が起こり、実用に向かない。
原因は下記の3点が挙げられる。
- 正極側で、還元反応により生じたH2がCu 表面を覆い、一種の内部抵抗となることで、さらなるH+の還元反応を阻害する
- 負極側でZnがZn2+となる反応が進むと、Zn付近でZn2+の濃度が増し、さらなるZnの陽イオン化が阻害される
- 正極側で 2H+ + 2e- → H2 の反応を起こすには、比較的大きな活性化エネルギーが必要となり、約0.76Vの起電力の中から、エネルギー(水素過電圧)が消費される

逆起電力
さらに、電池の分極の原因として、還元反応により生じたH2が H2 → 2H+ + 2e- となり、電子が負極側へ流れるという、逆向きの起電力が作用すると説明される場合がある。

しかし、これには誤解がある。
なぜなら、そもそもイオン化傾向が Zn>H2 であり、H2 → 2H+ + 2e- は自然には起こり得ない。
また、仮に逆向きの起電力が作用する場合、システム内で、
H2 → 2H+ + 2e- |
Zn2+ + 2e- → Zn |
∴ H2 + Zn2+ → 2H+ + Zn
という吸熱反応が生じるため、自然にこの現象が起きることは考えにくい。
減極剤
分極を克服するために、原因の1つである
正極側で、反応により生じたH2がCu 表面を覆い、一種の内部抵抗となることで、さらなるH+の反応を阻害する
については、減極剤(過酸化水素H2O2)を使用することで改善できる。

つまり、H2O2 + H2 → 2H2O となり、H2を除去することができる。
しかし、H+よりも遥かに強い酸化力を持った減極剤(過酸化水素H2O2)を用いることで、
H2O2がH+に代わり酸化剤となり、Znを還元剤とする新たな電池がシステム内に出来上がることに注意したい。
(-)Zn | H+, H2O2 | Cu(+)
負極 | Zn → Zn2+ + 2e-(酸化されている=還元剤) |
正極 | H2O2 + 2H+ + 2e- → 2H2O(還元されている=酸化剤) |
全体 | Zn + H2O2 + 2H+ → Zn2+ + 2H2O |
起電力 | 約2.0V |
ダニエル電池 発明:1836年
ダニエル電池は、亜鉛板を浸した硫酸亜鉛水溶液と、銅板を浸した硫酸銅水溶液を素焼き板で仕切り、亜鉛板と銅板を導線で繋いだ構造の電池。

構造
システム内の酸化還元反応
負極 | Zn → Zn2+ + 2e- (酸化されている=還元剤) |
正極 | Cu2+ + 2e- → Cu(還元されている=酸化剤) |
全体 | Zn + Cu2+ → Zn2+ + Cu |
負極と正極の判断
ボルタ電池と同様に、システム内の物質のイオン化傾向から負極と正極を割り出せる。
ZnはCuよりイオン化傾向が大きいので、Znが陽イオンとなり電子を放出し、その電子をCuが受け取る。
水溶液にはH+がほとんど存在しないため、Cuが還元されるので、このシステムではZnが還元剤、Cuが酸化剤として酸化還元反応が生じる。
システム内のイオン化傾向:
Zn > Cu
起電力は、ZnとCuのイオン化傾向の差で求められるので、
下記のイオン化電位から、
Zn | 約 – 0.76V |
Cu | 約0.34V |
約1.10Vの起電力が得られることが分かる。
留意点
ボルタ電池の弱点を改善
ダニエル電池はボルタ電池で生じた分極を克服した点に注目したい。
具体的には下記の内容である。
- H2を生じさせない2種類の水溶液(ZnSO4、CuSO4)を使用
- 負極側のZn2+の濃度を調整
素焼き板を用いる理由
酸化還元反応が進むと、
負極側ではZnSO4(aq)中のZn2+の濃度が増し、電気的にプラスに偏る。
正極側ではCuSO4(aq)中のCu2+が減少し、相対的にSO42-の濃度が増して、電気的にマイナスに偏る。
これでは反応が進まなくなるし、
基本的に溶液は電気的に中性でなければならない。

この電気的な偏りを解消し、各溶液を中性にするため、各水溶液の境目に素焼き板を設置する。
素焼き板はイオンのみを通過させることができる。
つまり、負極側のZn2+がマイナスの電荷に偏ったCuSO4(aq)へ移動し、同様に、正極側のSO42-がプラスの電荷に偏ったZnSO4(aq)へ移動できるようになるわけだ。

鉛蓄電池 発明:1859年
鉛蓄電池は、希硫酸水溶液に鉛と酸化鉛(IV)を浸し、それぞれを導線で繋いだ構造の電池。

構造
システム内の酸化還元反応(放電)
負極 | Pb + SO42- → PbSO4 + 2e-(酸化されている=還元剤) |
正極 | PbO2 + 4H+ + 2e- + SO42- → PbSO4 + 2H2O(還元されている=酸化剤) |
全体 | Pb + PbO2 + 2H2SO4 → 2PbSO4 + 2H2O |
起電力 | 約2.0V |
負極と正極の判断
PbとPbO2を電極に用いた鉛蓄電池では、両極とも鉛の元素を含んでいるため、イオン化傾向では負極と正極の判断がしづらい。
そこで、PbとPbO2を高温で反応させて酸化数の変化を観察すると良い。反応は、
Pb + PbO2 → 2PbO
となるので、Pbは酸化数が0→+IIとなり、PbO2は酸化数が+IV→+IIへと変化することが分かる。
よって、酸化されたPbが負極となり、還元されたPbO2が正極となる。
留意点
一次電池と二次電池の違い
ボルタ電池やダニエル電池は使い切りの一次電池であるが、これに対して鉛蓄電池は放電と充電の両方ができる二次電池である。
充電
充電をするには、放電とは逆向きに電流が流れるように、「別の電源(電池)」をつなぐ。
これにより、負極表面のPbSO4がPbに戻り,正極表面のPbSO4がPbO2に戻る。
充電の化学反応式は放電と逆になる。
2PbSO4 + 2H2O → Pb + PbO2 + 2H2SO4

後記
この記事は、ボルタ電池→ダニエル電池→鉛蓄電池という、技術の進化の流れを、学習用にワンストップで理解したい、という思いから作成に至りました。
記事を作成する上で、『岡野の化学が初歩からしっかり身につく 理論化学1』、『レバレッジ特許翻訳講座』による解説を元に、下記の有用なサイトも参考にさせていただきました。
参考URL:
『生活と化学』
http://sekatsu-kagaku.sub.jp/battery.htm
『合格タクティクス』
https://yama-taku.science/chemistry/battery-electrolysis/battery-and-electric-current/
さて、今週も引き続き化学の学習を進め、「電気分解」「熱化学」の領域に入っていきたいと思います。