現在取り組んでいる実ジョブ・シミュレーションにおいて、原文すべての訳出が完了したので、箸休めにブログを書いてから、校正に移ろうと思います。
今回の翻訳対象は、抗体を用いて歯周病を治療する方法に関する、特許発明の明細書です。ワード数は約23,000。シミュレーションにおける目標としては、1日の翻訳処理速度の平均を2,000ワード以上にすることであり、11日間の作業日数(1日の作業時間平均8.5h)をもってその目標を達成しました。
それでは、ここまでの翻訳作業の様子について振り返ってみます。
目標処理速度の達成要因 について
要因は大きく分けて3つあると考えます。
- スピードを常に意識する翻訳マインドの維持
- 翻訳作業自体の慣れ
- 原文内容
■①( スピードを常に意識する翻訳マインドの維持 )について
これまでの実ジョブ・シミュレーションにおいて、最も意識していたことは訳文の正確性であったのですが、今回は訳出スピードを最優先事項に位置づけました。
従来は、1センテンス分を訳した後、慎重にその出来を判断して次の訳文に進むようにしていたのですが、今回は、訳出後、必要最低限の確認のみで次の文に進むことをルール化。すなわち、右見て左見て右見て、もう一度左を見ることは辞めようという意味合いです。
再度左を見たとしても、訳文を抜本的に修正することはまず無いので、自分の訳を信じて潔く次に進むことを意識しました。
■②( 翻訳作業自体の慣れ )について
実ジョブ・シミュレーションをこれまでに3件実施したので、大分作業に慣れてきた感覚があります。
例えば、センテンスの特徴に応じて訳出手法を無意識に使い分けることができるようになり、また、作業性を高めるための配慮(つまり、訳語統一の際に注意が必要な単語を、一覧表にまとめるなど)も自然にできるようになりました。
そして、翻訳脳が鍛えられてきたということも実感しています。

■③( 原文内容 )について
特許明細書においては、概して、ワード数と内容の具体性は比例する傾向があるように思えます。
今回取り組んだ明細書のワード数は20,000以上であり、これまで私が経験した中で1番ボリュームが多いものであったのですが、訳しやすさとしても1番でした。
ワード数が多くなるということは、扱う概念をブレイクダウンして説明していることの証左であり、原文を読み進めていけば理解が自ずと深まってくるため、オプショナルな調査の必要が少なくなります。
また、一度確定させたセンテンスの構造を使いまわすことも長文案件には多く見受けられるので、メモリマッチの頻度が高くなります。
したがって、ワード数がある程度多くなるにつれて、翻訳も効率的に行えるようになると言えそうです。
長文案件における作業の注意点について
しかしながら、長文案件を処理する際には留意すべきことがあるのもまた事実。
最も難しいと感じているのは訳語統一でして、翻訳内容が具体的になるほど、扱われる単語の種類も多くなるので、その管理が煩雑になってきます。
例えば、「治療」という概念に関わる単語にしても、「treatment」「therapy」「therapeutic」「therapeutically」「modality」「care」など、文脈に依存して様々な単語が使われており、これらをどう訳し分けていくか、そしてどう統一させていくか、さらには、イレギュラー(原文上の単語の使い分けミス、または名詞句になった場合の意味の変更)にどう対応していくか、ということに注意していかなければなりません。
また、翻訳を進めていくと、内容理解がブラッシュアップされて正確になり、それに伴って以前に訳語確定したものを改善する必要がある局面に遭遇します。故に、キーワード検索を用いて訳出済みのセンテンスに戻り、都度修正していくという作業が生まれるため、長文案件においては、ミスが起きぬよう神経を使って訳語を管理する必要性が増してきます。
この辺りの作業は、翻訳段階で可能な限り行って校正の負担を減らすか、あるいは、翻訳リズムを崩さぬよう校正時に処理すると決めるか、経験を積みながら最適解を模索していきたいと思います。

次回の取り組みについて
ひとまず、今回のシミュレーションの目標である、処理速度2,000ワード/1日 以上を達成できたことは、1つの成功体験となりました。
この数字は私にとってかなり大きな壁であったのですが、経験を積んでいけば超えられる壁であることがわかり、勇気が出てきました。以降、安定してこのスピードを出せるようにしていきたいと思います。
次回のシミュレーションでは、ワード数30,000程度の特許明細書を翻訳素材にする予定です。
というのは、翻訳における持久力をつけて、実ジョブの際には余裕をもって案件に取り組めるようにしておきたいからです。
駆け出しの新人に発注しやすい特許翻訳案件として想定されるのは、バイオ系では約15,000ワード数辺りのものではないかと仮説を立てています(リスク回避の観点と案件数から鑑みて)。
したがって、その倍の量のワード数を有する案件を練習時にこなしておけば、仕事の際にはパフォーマンスを上げて取り組めることでしょう。
そして、9月はレバレッジ特許翻訳講座を受講して12ヶ月目となる月なので、学習/練習期間の節目として、上記シミュレーションを行い、10月からのトライアル応募に向けて準備を整えていきたいと思います。
***2020 8/25追記***
今回私が達成した目標である 平均処理速度2,000ワード/1日 は、翻訳作業開始前の調査や校正の時間を含めてカウントしておりません。翻訳マーケットでは、全作業行程を含めて、2,000ワード/1日 が求められているということですので、更なる研鑽が必要です。認識の違いにより、誤解を生じさせてしまう内容となってしまい、申し訳ございません。引き続き頑張っていきます。