「exile」

時代精神

 2020年で最もよく聞いた曲はテイラー・スウィフトの「exile(エグザイル)」だった。

 とりわけ彼女の熱心なファンではないのだが、この曲が時代精神のようなものを翻訳しているように思えて、何度も何度も再生ボタンを押しては曲の世界に浸ることが心地よかったのである。

 テイラー・スウィフトと言えばアメリカを代表する女性シンガーソングライターであり、21世紀のポップアイコンの1人であると言っても過言ではないだろう。

 「exile」は今年7月に8枚目のスタジオアルバムとしてリリースされた『folklore(フォークロア)』に収録されている。このアルバムは、プロデューサーに盟友ジャック・アントノフと、ロックバンド「The National(ザ・ナショナル)」のメンバーであるアーロン・デスナーを迎え、新型コロナウイルスによる隔離生活の中でリモートワークによって制作された。

 アルバム全般にわたりアップテンポなビートは避けられており、ピアノとギターを基調としたメロウなバラード曲が続いているのが印象的だ。

 「exile」ではインディーフォークバンドの「Bon Iver(ボン・イヴェール)」が参加しており、リードボーカリストであるジャスティン・バーノンがテイラーと共にボーカルパートを務めている。男女2人のボーカリストによる歌声の掛け合いがこの曲の一番の聞き所だと言えよう。

 この曲で描かれているのは、破局したばかりの男女の心情である。

 未練たらたらの男と後ろ髪を引かれながらもすでに別の風景を見ている女。そんな2人が偶然また出くわしてしまったのである。いわゆる神様のいたずらだ。

 新しい男と一緒にいる女の様子を遠目から男が見つめる。その視線に気づきながらも決して振り返ることはしない女。映画の中でよく描写されるありきたりなシーンである。

 曲中では、2人のお互いに対する心の中の声が激しくぶつかり合う。

 音楽や映画、小説の良いところは、作品に対する鑑賞者の解釈が自由であるということだろう。筆者はこの曲を、単なる男女の物語ではなく、コロナ時代の人々の潜在意識を表現した作品であると捉えている。

 新型コロナウイルスにより“前の世界”から“後の世界”へと強制的に移行させられている中で、人々の意識はそのスピードに追い付けないでいる。まるで長く付き合ってきた交際相手に突然振られてしまったかのように。

 ぬくもりで満ちた記憶は簡単には拭い去れない。しかし前に進まなければならない。なぜなら、現実の世界ではすでに新しい常識が我が物顔で居座っているのだから。

 この解釈に自信が持てたのは、プロモーション映像の中でジャスティン・バーノン(男性ボーカル)が口元にバンダナを巻いている様子を見たことによる。つまり、男の心情が現在の人々の意識を反映していると読み取れるのだ。

 “前の世界”を象徴するのが女の心情であることを理解するのは容易である。映像の中でテイラー(女の心情を歌う)は、マスクをせずに他のミュージシャンとぬくもりを感じさせるスタジオにいる。つまり隔離されていないのだ。これはどう見ても広いスタジオに1人でいるのにマスクをしているジャスティン(後の世界)とは対照的に映る。

 優れたアーティストはその時代特有の空気、精神を如実に物語ることができる。

 この視点から歌詞に着目して「exile」を聞くと、意識の奥底に埋まっていた生ぬるい感情がこみあげてくるからおもしろい。おそらく多くの人が、この未練たらたらな男の心情に共感してしまうのではないだろうか。

「exile」 歌詞(筆者訳)

I can see you standing, honey
With his arms around your body

ハニー 君が我慢しているのがわかるよ
そいつが君の体に腕を回しているのも

Laughin’, but the joke’s not funny at all
笑っているけどそのジョーク
全然おもしろくないんだろ

And it took you five whole minutes
To pack us up and leave me with it

君はたったの5分で
俺たちの関係を終わらせて去っていった

Holdin’ all this love out here in the hall
この愛すべてを抱えて玄関から出ていったんだ

I think I’ve seen this film before
こういう映画 前に見たことあるな

And I didn’t like the ending
確かエンディングは好きじゃなかった

You’re not my homeland anymore
君はもう俺の拠り所ではないんだ

So what am I defending now?
そしたら俺は今何を守っているのだろう?

You were my town, now I’m in exile, seein’ you out
君は俺のふるさとだった
君を見届けながら俺は今 さまよっている

I think I’ve seen this film before
こういう映画 前に見たことあるな

I can see you starin’, honey
ハニー あなたに見られていること
わかっているわ

Like he’s just your understudy
まるで彼があなたの代役みたいに

Like you’d get your knuckles bloody for me
私のために拳を握りしめているのね

Second, third, and hundredth chances
2回、3回、そして100回もチャンスをあげた

Balancin’ on breaking branches
折れかけの枝の上でバランスが取れるように

Those eyes add insult to injury
もうそんな目で見ないでほしいの

I think I’ve seen this film before
こういう映画 前に見たことあるわ

And I didn’t like the ending
確かエンディングは好きじゃなかった

I’m not your problem anymore
私はもうあなたの悩みの種ではないわ

So who am I offending now?
そしたら私は今誰を傷つけているのだろう?

You were my crown, now I’m in exile, seein’ you out
あなたは私の名誉の証だった
あなたを見届けながら私は今 さまよっている

I think I’ve seen this film before
こういう映画 前に見たことあるわ

So I’m leaving out the side door
だから裏口からそっと出ていくの

So step right out, there is no amount
Of crying I can do for you

もう前を向こう
君のために流せる涙はないから

All this time
We always walked a very thin line

これまでずっと
俺たち(私たち)はとても細い道を歩んできた

You didn’t even hear me out (You didn’t even hear me out)
君は俺の話を最後まで聞こうとしなかったね
(あなたは私の話を最後まで聞いてくれなかった)

You never gave a warning sign (I gave so many signs)
警告のサインも全くくれなかった
(何度もサインを出したのに)

All this time
I never learned to read your mind (Never learned to read my mind)

これまでずっと
俺は君の心を少しも理解しなかった
(私のことをちっとも理解してくれなかった)

I couldn’t turn things around (You never turned things around)
関係を修復することができなかった
(関係を一切修復しなかったわね)

‘Cause you never gave a warning sign (I gave so many signs)
だって君が警告のサインを全くくれなかったから
(私はたくさんサインをあげたわ)

So many signs, so many signs
本当に 本当にたくさんのサインを

You didn’t even see the signs
あなたはそのサインをわかろうとさえしなかったのよ