分子間力を理解する際に気づいたこと(学習記 11/12-18)

先週は化学の勉強において、「化学結合」、「結晶」という大きな単元の理解に時間を費やしました。その過程で重要な気づきを得たのでここに記録します。

気づきとは、未知の概念を理解する際に注意したいことです。

<注意点1>
単語の定義を調べるに当たっては、主要部の説明だけでなく、関連語など、広く確認しておかなければならない。

<注意点2>
多方面のリソースを用いて様々な角度から検証しなければならない。

これらは、「分子間力」について理解する際に得た気づきです。これからその過程について説明していきます。分子間力は関連する概念が入り組んでいて理解しづらい部分がありました。もしこれから学習する方の参考になれば幸いです。

分子間力の定義について

まず、Wikipediaで「分子間力」の意味を確認してみました。↓

定義を読むとある疑問が生まれました。分子同士に働く力なのに、なぜ「イオン間相互作用」が含まれているのだろう。イオンって分子だろうか?しかも分子は2つ以上の原子からなるはずではなかったか?

この疑問を解消するために、続いて分子の定義をWikipediaで確認しました。↓

なるほど、「分子は2つ以上の原子から構成される電荷的に中性な物質を指す」と最初に記載されているが、希ガスのような一つの原子で安定している物質も、単原子分子として、広い意味で分子と捉えることができるんだな。

さらに、「分子」は英語でmoleculeと表されるが、語源として「小さな塊」という意味を持っているんだな。

つまり、「分子」の定義は2つの原子から構成されるものだけでなく、希ガスのように1つの原子が分子のように振る舞う希ガスの単原子状態も包摂している。また、分子は原子が安定化するために構成されたものであるので、希ガス電子配置になるために形成されたイオン、電荷密度を小さくするために形成された分子イオンも「安定した小さな塊」という意味では、分子として捉えてもよいだろう。と仮定しました。

次に、この仮定を裏付けるべく英語版のWikipediaで分子の定義を確認してみました。 ↓

なるほど、分子は「2つ以上の原子が化学結合によってまとまり、電荷的に中性となった群。また、電荷を持たない点でイオンとは区別される(赤線部)」と定義されつつ、「量子物理学、有機化学、生化学においては、“分子”という語の意味はしばし厳密に用いられず、多原子イオンにも適用される(緑線部)」と記述されている。

さらに、「気体分子運動論では、“分子”という語は、構成に関わらず、いかなる気体粒子にもしばし用いられる。この定義によれば、希ガス原子は単原子分子として分子と見なされる(青枠部)」と説明されている。

したがって、先ほど仮定した内容は正しいと判断できました。

つまり「分子間力」とは、「安定した小さな塊」と「安定した小さな塊」との間で作用する力であると解釈できます。すなわち「分子間力」で使用されている「分子」という語は、2つ以上の原子から構成される電荷的に中性な物質を指す狭義の意味でなく、単原子分子およびイオンを含めた広義の意味として機能しているということです。

これで分子間力がイオン相互作用も含めていることを理解できました。

ファンデルワールス力の定義について

続いてWikipediaによる分子間力のページの説明を読み進めていくと、分子間力の種類を力の強い順で並べた最初の説明では、ファンデルワールス力が記述されているが、後の説明で数値的に力が比較されている分子間力の種類を見ると、ファンデルワールス力が記述されていないのはなぜだろう?と混乱してしまいました。↓

例によって、まずはWikipediaで「ファンデルワールス力」の意味を確認してみました。↓

これによると、ファンデルワールス力は、「双極子の作用」と、「ロンドン分散力:瞬間的に生じる部分電荷による分子間の相互作用」とに大別できます。

であるとするとWikipediaの分子間力のページでの説明で、双極子相互作用とファンデルワールス力が区別して明記されていたのは、どういうことなのだろうか?

また、水素結合は双極子-双極子の相互作用であるのに、なぜファンデルワールス力と区別されているのだろうか?とさらに疑問が生まれました。

後者の疑問は、分子間に働く力の強さに着目すると、力の度合いがファンデルワールス力より水素結合の方が明らかに強いため、という理由で解消されました。

つまり、電気陰性度が高い窒素N、酸素O、フッ素Fと共有結合した水素が分極によって瞬間的に水素イオンH+のように振る舞い、水素の原子核と他の分子の電子との距離が近づくことにより、クーロン力が強くなるということです。

次に、Wikipediaの説明が揺らいでいるのでは?という前者の疑問を晴らすために、違う角度からファンデルワールス力について調べました。ミシガン州立大学の資料(https://www2.chemistry.msu.edu/courses/cem151/Intramolecularforces_Ch11.pdf)では、分子間力について概念が分かりやすく整理されていました(星印と黒枠・赤枠・青枠はこの記事の説明のため、筆者が追記)。↓

このチャートを見れば、分子間力は5つに大別されることが分かり(黒枠)、ファンデルワールス力(赤枠)と双極子との関係(黄星印)、水素結合との区別(青星印)も可視化でき、さらに、異なる分子間力の強さの度合い(青枠)を相対的に比較できます。

そうすると、Wikipediaによる分子間力の説明は、下記のように書き換えた方が理解しやすいかと思われます。↓

-------------------------------
分子間力(intermolecular force)は、
分子同士や高分子内の離れた部分の間に働く電磁気学的な力である。
力の強い順に並べると、次のようになる。

イオン結合
イオン−双極子相互作用
水素結合
ファンデルワールス力
     双極子-双極子相互作用
     ロンドン分散力
-------------------------------

まとめ

以上のように、「分子間力」という概念を正確に理解するため試行錯誤をしましたが、未知の概念を理解する際は、

・語の定義を短絡的に捉えず、細部の説明まで目を通す

・情報を入手する際は多様なリソースから取捨選択する

ことが重要であると改めて認識しました。翻訳で誤訳をしないためにも、単語が意味する概念を正確に慎重に理解しなければならない、と肝に命じた次第です。

最後に、「化学結合」について整理したマインドマップを現状の知識の記録として掲載し、今回の学習記を終了します。