翻訳キャリアのスタートに向けてアクセルを踏む

 「模擬ジョブ」という形で、バイオ分野の特許明細書(ワード数15,000ほど)の翻訳を1件完了させました。2週間という仮納期を設けて納品状態まで仕上げてみたところ、「できること」「できないこと」がより明確に。

 今回の原文においては、ややこしい表現が多々使われており、内容を類推する力が試されました。なかなか現場感があっていいな、と気合を入れつつも、汗を垂らしながら向き合い、なんとか校了。

 翻訳後の気づきを下記にまとめておきたいと思います。

振り返り

収穫

 模擬ジョブを終えての一番の収穫は、翻訳でお金を稼ぐイメージが見えてきたこと。ある程度の品質を保ちながら納期に間に合わせることができたという経験から、どれくらいコミットメントすれば対価が支払われるのかが肌感覚でわかってきました。

 仮にレートが1ワード10円だとして、ディスカウントなしの単純計算によれば、今回の1件で15万円。2週間で15万円稼ぐことはそう簡単なものではない、という印象です。

 納期は自分で設定しましたが、翻訳雑誌に記載の一例によると、2週間で10,000ワードの仕事をされている方もいらっしゃるようなので、常識の範囲内でのスケジューリングではあったかと思います。

 しかし、処理速度を上げなければ訳文の品質はもちろん、自身の生活の質も落ちてしまいます。プロの現場では、1日の平均処理ワード数は2,000文字以上と言われていますが、この数字が意味するものは深いです。

処理速度と品質の相関関係について

 1日の翻訳時間は8.5時間が自分にとっての限界だということを、今回の経験から理解しました。それ以上続けてしまうと、処理量は稼げますが、訳文が荒れる。講座でもそのことについて言及されていましたが、確かにその通りだなと実感しました。

 訳文を確定するには、自分で設けた判断基準を超えなければなりませんが(この閾値設定が翻訳者の実力とも言えるでしょうか?)、長時間連続で翻訳を続けていると体力が落ちてきて、この基準が下がっていくようです。つまり、訳文の質が下がることにつながります。

 また、訳文の質をベターにするという観点で、校正に費やす時間を多めに確保できるようにしたいと感じました。翻訳中は「イケてる」訳文ができたと思っていても、一呼吸おいて校正時にそれを眺めると、「イケてない」に代わっていることがままあります。

 やはり、何か物をつくる以上(私は翻訳をクリエイティブな作業だと思っています)、最高の状態に仕上げたい、というのが作り手の本望です。ですので、校正は余裕をもって行いたい。気分をリフレッシュさせるためにも、最低限、週に1日は翻訳から離れる日を設けたい……翻訳時の処理速度を上げることが重要です。

 とはいえ、そう簡単に速度は上がらないと思います。1日の処理量を100ワード上げるには、相応の努力や投資が必要でしょう。

 目先で改善できることとしては、翻訳作業全体のスキーム最適化です。今回は、下調べや準備が甘かった。また、2、3か月後の効果を期待してPAT-Transerの導入も検討するようになりました。高い買い物ですのでこれまで躊躇していましたが、先行投資をしない限り成長は加速しません。

 処理速度の向上に対しては、あらゆる角度から貪欲に向き合わなければならないと感じています。

訳文に対する自己評価

 一方で、今回の自身の訳文に対しては手ごたえがありました。

 先月に集中して行った、イートモを利用しての「翻訳力底上げ特訓」により、訳文表現がこなれてきたようです。また、遺伝子工学の体系的な学習による効果もあり、原文の内容理解力が向上。それに伴い訳語確定の精度が上がりました。

 特許発明の内容を深く把握できると、公開訳と比較して表現が異なっていても、自分の方が正しいと確信を持てるようになります。この体験は、翻訳市場参入に向けての大きな自信へとつながりました。

 しかし、まだまだ細かい部分の修正は必要で、例えば「:」が含まれるような入れ子構造の文章のさばき方であったり、「及び/並びに/又は/若しくは」の使い分けの徹底、「can/may」の文脈に応じた訳しわけ等が不十分であったりします。

 このようなことに注意をしつつ、今後もさらに研鑽を積み、内容理解力と表現力に磨きをかけて、読み手の負担とならない(特許審査が通りやすくなる)訳文を作成できるようにしていきます。

次の模擬ジョブの予定

 今回の反省点を踏まえて翻訳作業スキームを見直したので、その有効性を確かめることを目的に、背景知識があるカテゴリーから、約7,000ワードの素材を次の翻訳対象としてピックアップしました。

 7月いっぱいは上記の翻訳作業に時間を費やし、来月は約20,000ワードの素材で模擬ジョブを実施して、ワード数と処理速度の相関関係を確かめたいと考えています。

 このようにして、実ジョブに近いトレーニングを重ねることにより、 対応可能ワード数を徐々に増やしながら処理速度を上げ、ついてはスムーズにキャリアをスタートできるよう、努力していきたいと思います。