翻訳者として稼働するまでの道のり

会社を辞めてから実務翻訳者として仕事をするまでの行動内容をまとめました。翻訳については、勤め先で多少業務に関わったものの、ほぼ未経験の状態からスタート。そこで、私はオンライン講座『レバレッジ特許翻訳講座』を受講して、翻訳スキルの獲得に努めました。

本記事は、私が上記講座の運営者様に提出した受講感想の一部を抜粋したものです。2年間の受講期間における行動を時系列で記載しております。

内容においては、当該講座の特有事項に関するものがあり、それらについての注釈は特別設けておりません。講座受講生及び受講検討中の方が本記事を読んでくださることを想定し、文章上のコミュニケーションの効率性から敢えてそのようにしております。

したがいまして、一般の読者様におかれましては、適宜、必要な部分をお読みいただけますようお願い申し上げます。

2019年10月

全体像の把握

講座を受講してからは、まず動画ファイル及び各種資料のダウンロード作業を始めました。ダウンロードしたデータはバックアップをする必要がありますが、バックアップの知識が不十分であったので、関連動画を視聴しました。理解を深めた上で、毎日のデータの差分を自動的にバックアップできるよう、HDDを購入してセットアップしました。

動画ファイルについては、ファイル名からおおよその内容を推測して、カテゴリーごとにフォルダを分けて整理。この作業過程で、講座の輪郭がぼんやりと見えてきました。

次に、様々な背景を持つ講座受講生に向けられたコンテンツを、自分はどのように消化すべきか検討しました。講座での学習をスムーズに進めるために、初めに講師の考え方や視点を可能な限り理解し、講座の全体像を把握することを優先事項としました。

そこで、X~Zシリーズの紙資料をマーカーで線を引きながら読み通しました。特にXシリーズには、講座の趣旨と必要な翻訳ツールを理解するのに最適な情報が体系的に記載されていました。読み進めながら、紹介されているソフトウェアを一通り試し、翻訳作業に必要なスキルを理解して、購入すべきツールや辞書をリストアップしていきました。

Yシリーズには、翻訳支援ツールである『SDL Trados Studio』を使用した対訳収集方法が記載されていました。この時点で『Trados Studio Freelance Plus』のライセンスを購入していたので、実際にTradosを起動し手を動かして練習しました。プロジェクトの作成から、画面構成の把握、新規翻訳メモリ/用語集の作成、エクセルファイルから用語集へのデータ移行、対訳登録、レポート解析までを一通り試してみました。

Zシリーズにはトライアルについての概要が記載されていました。それによって、トライアルの合格がまずは当面の目標となることを理解しました。その後、トライアルの内容を具体的に知り、現状の自分の翻訳レベルを確かめるために、『トライアルレビュー』と題された、トライアル一件分の動画ファイルを追従して、実際に翻訳してみました。その結果、トライアルの厳しさを実感すると同時に、一文に向き合い訳文を作り出す楽しさがわかりました。

X~Zシリーズから、翻訳作業に必要なツールと手法を理解し、翻訳の処理速度を上げることの重要性を知ったので、初期投資として、ローラーバーマウスと東プレキーボードを導入しました。

続いて、翻訳者としてのゴールを意識することが重要だと教わっていたので、当面の目標となるトライアル応募に向けて、CV作成に関する動画をまとめて視聴しました。CVに記載する専門分野を仮決定すべく、『XMind』を利用したマインドマップの作り方を学習しながら経歴を棚卸ししました。

分野の調査として、特許庁の特許出願技術動向調査を参考にする方法を知り、トレンド、興味が湧くもの、自分の経歴と親和性があるもの、という観点で専門分野を絞っていきました。

ひとまず専門分野を電気/通信と仮決定した後は、音声認識技術に関する特許明細書を一件、未知語を調べてノートを作成しながら英文と日文の両方で熟読しました。

その結果、まずは化学/物理の動画シリーズを完了させることが優先事項であると判断するに至りました。その理由は、化学/物理の基礎知識の不足により、読解速度が非常に遅かったからです。高レートで安定して実ジョブを受注するために、露天掘り勉強や基礎固めを十分に行うことを行動指針にしました。

また、学習初期の段階からブログを開設することが重要だと判断し、『KokoDoki』サービスを利用してブログ開設作業に着手しました。学習過程の記事化を通じて、書く力を鍛え、ブランディングを図り、広告収入も見込む。翻訳者として仕事を得るために、できる限り貪欲に何でも試してみようと思いました。

一方で、特許翻訳に関連する仕事についてもほとんど何も知らない状態でした。そこで、弁理士やサーチャー等の仕事内容を整理し、特許出願手続きや特許権等の制度について、大まかに理解するようにしました。

調べた内容は資産化することが大事だということを学び、『知子の情報』というデータベースを導入して逐一記録するようにし、紙資料は印刷してファイリングする癖をつけました。

翻訳業界についての理解に関しては、この時期、タイミング良く翻訳祭に参加することができたので、参加企業をリサーチして臨み、業界の雰囲気やキーパーソンの把握、将来的な営業の予習をするようにしました。

講座の全体像、現在の自分のレベル、翻訳業界の構造を大まかに把握できたところで、年間スケジュールの作成に着手しました。翻訳業界において繁忙期や人手不足の時期があることを考慮し、学習ペースを見積もって、トライアル受験時期及び目標合格時期を設定。それに合わせ、トライアル応募用のCVをたたき台として作成しました。

この時点で、講師に初めてSkype相談をお願いしました。作成したスケジュールとCVを客観的に評価してもらい、必要な部分を修正することで、講座を本格的にスタートさせる準備が整いました。

2019年11月-2020年1月

化学/物理の学習

『岡野の化学』『橋元の物理』動画シリーズを利用した、化学/物理の基礎固めを開始しました。初めはシリーズの動画数に圧倒され、スケジュール通りに終わらせることができるか不安を感じていましたが、次第に学習方法が確立されていき、進捗ペースが加速していきました。

私の場合は1日あたり平均して12時間を勉強に充てることができましたので、約3ヶ月半で全単元の学習を一通り終えました。

講義では、新しい学習単元に入る際に、キーワードを先に調べておくことを教わりました。さらに、そのキーワードから派生する概念についても確認し予習をしておくことが重要でした。参考書1ページ分の内容を予習するのに半日以上かかることもありましたが、そうすることで結果的に後のページをめくるスピードが加速していきました。

また、「化学結合」「酸と塩基」「分子間力」「力学」などといった、知識全体の要となる単元については、時間をかけて学ぶことが求められましたが、それには相当の意味があって、その部分について逃げずにしっかりと理解しておくことで、後の応用分野や各論での学習速度が加速しました。

学習過程において、理解に苦労する複雑な概念については、ブログ記事として理解の道筋を残しておくようにしました。公に向けた記事を作成することにより、内容の理解を徹底しなければならないという緊張感が生まれ、学習効率が高まると考えたからです。

記事化対象となる内容は、その多くが大学レベルの知識を要するものであって、講師からも理解するように勧められるものでした。学習の目的は、専門的技術文書を翻訳できるようになることですから、基礎固めをしている最中でも、なるべく背伸びをして大学レベルの学習を採り入れ、成長の伸び代を作るようにしました。

また、学習内容を大学レベルへ接続することに関しては、動画シリーズで頻繁に紹介される化学/物理の学習サイトを参考にすることが有効でした。それらのサイトでは、高校と大学の橋掛けとなるレベルでの解説記事が多くありましたので、常に高校レベルの参考書と並行して読むようにし、単元ごとの理解を深めていきました。

とはいえ、基礎固め中は、目の前の基礎レベルの学習をこなすことだけに集中してしまう傾向があります。そこで、実ジョブを得て稼ぐというゴールを忘れないようにするために、講師のアドバイスに従い、学習した内容に関わる特許明細書を読む訓練をしました。

講座では、弁理士の方による『砂漠を走る舟』と題されたWEB記事が折に触れて紹介されます。記事の内容は、特許実務スキルが、高校、大学、専門レベルなど、幾段階もの知識を積み上げてようやく獲得できるものであることを諭すものです。積み木のようなイラストを使って説明されているのですが、私は、高校レベルでの学習だけでは特許翻訳ができるようにはならないことを自分にわからせるために、その記事を印刷してトイレに貼っておき、いつでも意識できるようにしました。

化学/物理シリーズから得られたものには、理系科目の知識だけでなく、正しい勉強方法や勉強に対する心構えも含まれます。以下のような能力が育まれました。

  • 知らない概念について逐一調べてデータベースに蓄積する力
  • 複雑な多義語や類似概念についてマインドマップで整理する力
  • ノートをカスタマイズして知識を定着させる力
  • 理解速度を上げるために先読みする力
  • 学習内容をわかりやすく例える力

小手先のテクニックではないコアとなる能力は、すぐに習得できるものではなく、汗をかいて作業を続けていく上でようやく定着していくものだと実感しました。

プロフェッショナルの翻訳者として知的労働を行う以上、常に一定のクオリティを維持して成果物をアウトプットし続けないとならないので、動画シリーズを通して負荷がかかるトレーニングを集中的に行うことにより、知的労働に必要な基礎体力を身につけることができたのは収穫でした。

化学/物理の動画を全て消化する頃には、もはや理系知識を持っていないことに対するコンプレックスは消滅しており、脳のOSがアップデートされている感覚がありました。

2020年2月-3月

専門分野の決定とその学習

化学/物理の基礎固めを終えて、次に取り掛かるべきことは、トライアル応募に向けての準備でした。応募のためには、専門分野を決定し、当たり前ですがその分野で翻訳ができることが前提となります。したがって、まずは専門分野を何にするか考える時間を設けました。

私の経歴を棚卸しすると、音楽機材に関する知識が多いことから、電気/通信/機械分野が客観的に見ても説得力の高い専門分野として候補に挙がりました。しかし、これらの分野は和訳の需要が少ない印象があり、また、自分が大いに興味を持って勉強していけるか不安が残りました。

これに対し、バイオ・メディカル分野は、和訳需要の大きさが魅力的でしたし、知的好奇心が湧いてくる対象でもありました。難易度が高く、参入が困難であることは想定できましたが、そうであるからこそ挑戦する価値があるので、思い切ってバイオ・メディカルを専門分野に設定しました。

バイオ・メディカル分野の学習に関しては、特許明細書の読解と専門書を用いた学習を行いました。まず、特許明細書は殺菌/消毒関連の発明から選びました。化学の学習時に、殺菌メカニズムについて深堀して調べた経験があったので、入り口として最適だと思われたからです。

続いて、講師のアドバイスに従い、免疫関連の発明を対象にして、共通のキーワードから明細書を50件選び出し、背景技術部分のみを抽出して、公開時期が古いものから順につなぎあわせた編集物を用意しました。

これにより、経時的に技術の変遷を追っていくことができ、加えて、当業者が課題として捉えている内容や、多くの明細書で一貫して説明がなされる重要事項を、効率よく把握することができました。膨大に広がる専門的知識空間から、翻訳実務に必要な範囲を見切るには、この方法が最適だと納得しました。

特許明細書を読むコツを大まかに理解してからは、抗体に関する発明を中心に、バイオ関連の明細書の多読に励みました。なお、明細書を読み進める過程で、不足していると気づいた生物の基礎知識については、高校で履修する範囲の内容を、YouTube動画を利用してまとめて勉強しました。

専門書を用いた学習においては、ノートを作成しながら専門的内容を理解していきました。専門書で図解されている内容は、重要な概念であることが多いので、図をコピー用紙に手書きで模写し、色付けをして、記憶に深く残るようにしました。

このような図を学習内容としてブログ記事に載せていた際に、その記事を読んで下さった講師から、文字から得られた情報を図としてアウトプットする練習を積むとさらに効果的であると教わり、早速実行しました。ブログを利用して日々の成果を記録しておけば、講師から適切なアドバイスをもらえるので、成長を加速させることができました。

手書きした図が一定数蓄積されたところで、コピー用紙から図を切り抜いて大きな模造紙に張り付け、概念ごとにグルーピングし、それぞれの関係性を理解できるようにしました。このように、一定数の重要な概念をパターンとして脳内に取り込んでいけば、効率よく応用力が身につくであろうと考えました。

研究者ではない翻訳者としては、分厚い専門書を全て読み終えることは非効率的であるように思われます。応用範囲について理解する必要が生じた際には、該当する基本的パターンとの差分に注目して、その都度理解していけば十分だと判断し、基本概念の把握を徹底することに注力しました。

言語変換スキルの習得

専門分野の学習と並行して、試しに自力翻訳を行いました。化学分野(殺菌/消毒関連)とバイオ分野(癌免疫療法関連)の特許明細書を素材にして翻訳しましたが、全てを訳出するには至りませんでした。自力翻訳に資するスキルがまだ身についていないことが、途中で明確になったからです。翻訳一般に通じる、汎用的な言語変換テクニックを習得する必要がありました。

そこで、インターネット上の『翻訳の泉』というサイトを活用して、構文、前置詞、助動詞などのカテゴリーごとに紹介されている定訳を覚えていくことにしました。例文は逐一データベースに蓄積するとともに、エクセルでカテゴリーごとのシートを用意し、例文を一覧表示できるようにしました。このような仕込みをしておくことが、納期のある実務に対応するために重要だと考えたからです。

また、翻訳のヒントを知るには、翻訳会社が公表しているコラムも有用でした。目から鱗が落ちるような情報が無料で掲載されているので、目的を持って情報を取りに行けば、翻訳スクール数回分の内容を瞬時に獲得できるように思えました。

クライアントリスト作成

トライアル応募準備の一環として、応募先と応募戦略を考慮するために、クライアント(翻訳会社及び特許事務所)のリサーチに取り掛かりました。翻訳者向け雑誌の巻末に収載されている翻訳会社リストや、特許庁の事業者リストを参考にして、エクセルに調査内容をまとめていきました。

翻訳者募集情報はもとより、取扱文書などのサービス内容や、その会社のアピールポイントを確認することで、各社がどのような翻訳者を必要としているかが理解できるようになりました。集めた情報から共通項を抽出することで、目指すべき翻訳者像が見えてきたので、付箋に箇条書きで考察事項をメモし、それをPCの画面下に張り付けていつでも読める状態にしました。

合計100社ほどリストアップした時点でリサーチを一旦止め、成長の度合いに対応した応募順を考えていきました。

特許出願実務と特許法の概要把握

発明から権利化までの実務パイプラインにおいて、特許翻訳者が関与するタイミングと範囲を理解するために、特許出願実務の流れを、弁理士の方による解説を通じて把握しました。

PCT出願とパリルート出願との違い、優先権制度、オフィスアクション等、特許翻訳を担う上で知っておくべき事項を重点的に理解することで、特許明細書、とりわけ請求項を一段高い視点で読むことができるようになりました。

また、特許権取得の要件である、新規性及び進歩性についても理解しておくことが重要だと考え、概要を把握した上で、『特許判例百選』を購入し、判例解説を読みました。

このような実務的知識の獲得は、翻訳や専門分野の学習に対するモチベーションが下がった際に行うと、気分転換になって効率的でした。以降、言語的学習と専門分野学習、特許実務学習を組み合わせて、シナジー効果を意識しながら、総合的に翻訳スキルを向上させる学習スタイルを採り入れました。

翻訳環境整備

基礎学習を中心としていた段階では、MacBook ProにWindows10を仮想環境で立ち上げてTrados等を起動させていました。しかし、トライアル応募に向けて整備された翻訳作業環境が必要であると考え、デスクトップPCと大画面ディスプレイへの投資を決めました。

PCの選択に関しては、講師にアドバイスをもらい、余裕を持ったスペックで購入しました。ディスプレイは31.5インチを2枚導入し、デュアルディスプレイ環境にしました。これにより、目と画面との距離を物理的に大きく取ることができ、その結果、目の疲れが激減しました。

また、ディスプレイ上の作業空間を広げることに加え、デスク上のスペースを拡張して、ノートや資料を十分に広げられる作業空間を確保しました。

PCと同時に、購入リストに載せていた辞書を10万円分まとめて購入し、串刺し検索ソフト(LogoVista及びLogophile)を導入して、翻訳ができる状態にセットアップしました。

必要な装備に対して先行投資をすることは、業界参入への通過儀礼だと考え、思い切ってお金を使いましたが、その結果、投資分を何倍にもして回収する意気込みが湧いてきました。

2020年4月-6月

特許明細書を1件全て訳す

専門分野の学習と言語変換スキルの習得をある程度進めたことにより、特許明細書の公開訳を上書きできるくらいの実力がつき始めたような感覚を得ることができました。そこで、公開訳のある抗体関連発明の特許明細書を題材にして、約6,000ワード全てを自力翻訳することにしました。

正確に訳すことを第一の目的としたため、処理速度は計測しませんでしたが、実ジョブを想定して、調査からチェックまでの工程を一通り完了させました。その過程においては、行動内容を逐一記録しておき、気づきや改善点などをメモしておくようにしました。

訳文を納品可能状態までに仕上げた後は、残しておいた記録を基に、作業スキームを確立させるための案をマインドマップで練り上げました。

完成させた訳文のクオリティは、公開訳と一文ずつ比較して確認しました。差が生じた部分については、公開訳と自訳のどちらがベターであるかを念入りに分析しました。

公開訳の方がベターであった場合、ミスが生じた原因を明らかにし、解決策を考えるようにしました。分析した内容はフィッシュボーン図を使って可視化し、いつでも確認できる状態にしておきました。

一方で、公開訳にミスがあると断定できた場合は、その内容と共に修正案をコメントとして残しておき、トライアル応募時の資料となるようにしました。

新型コロナウイルスに関するブログ記事作成

新型コロナウイルスが全世界で猛威を振るうようになり、医学雑誌において症状や管理方法が盛んに報告されていることを知り、最先端の情報をキャッチアップするために、注目されている論文を読んでブログ記事を書くことにしました。

医学雑誌の中でもとりわけ著名なThe New England Journal of Medicine(NEJM)から、新型コロナウイルスと血圧の関係について報告している英字論文をピックアップし、翻訳しながら内容を確認しました。

内容を理解するには循環器やウイルス学についての知識が必要であったため、これを機に基礎知識について調べ、その内容を記事化していくことにしました。重要な概念については図解し、読者が理解しやすい記事にすることを心掛けました。

医学系の英字論文を読むのは初めてでしたが、題材にした論文は洗練された構造と文章で構築されていたため、想像していたよりも読みやすいものでした。したがって、著者の主張やその根拠を正確に理解し、自分の言葉で伝えることができました。

結果的に長文のブログ記事となり、執筆に相当なエネルギーと時間を注ぎましたが、この経験は将来的に活かされるものとなりました。また、記事は独自の資産となるので、翻訳者としてのブランディングにも有用でした。

トライアル初挑戦

応募:2社
書類通過:1社
合格:0社

専門分野の学習が進んだこと、翻訳作業環境が整ったこと、さらには翻訳スキームが構築されたことを踏まえ、現在の自分の実力が市場のニーズに応えられるものであるかを、トライアルに応募して確認することにしました。

応募準備を進める上で一番の懸念事項となったのは、経験者募集の条件下で書類選考を突破できるかどうかでした。これに対しては、特許明細書公開訳の不足点に対するチェッカー的コメントをまとめた資料のほか、専門性を担保するブログ記事、学習経緯などを総合的にアピールしたCVを用意して可能性を探りました。

結果として、求人募集をしていた翻訳会社2社に応募したところ、1社で書類選考が通り、翻訳課題を受け取ることができました。

トライアル課題の内容は、対象分野における種々の領域から選別された翻訳対象を含み、比較的タイトな時間制限が課されているものでした。訳語確定や、コメントの付与に対する判断に苦労したものの、全力を尽くして何とか制限時間内に提出することはできました。

日を置いて不合格の通知が届いた際には、相当なショックを受け、1日中寝込んでしまいました。辛い作業ではありましたが、敗因分析をした内容をブログ記事にまとめ、講師からアドバイスをいただきました。

結果はさておき、トライアルに挑戦したことは、以降の行動に有益な効果を及ぼしました。

トライアルに応募するまでは、自分の経歴で果たして書類が通過するのかという不安を抱えていましたし、課題に対して歯が立たないようであれば、それまでの努力は何だったのかと落ち込むことを恐れていました。

しかし、思い切って一歩踏み出すことで、トライアルに対する心理的ハードルは下がり、課題を通じて市場のニーズを予想することができるようになりました。自分の実力の現在地が把握できたところで、意識改革をして行動計画を見直しました。

翻訳力集中強化

トライアルの結果を受けてまず行うべきことは、翻訳力の底上げでした。医学翻訳向けの対訳ソフト『イートモ』を利用して、とにかく量をこなすことを念頭において翻訳トレーニングをしました。

『イートモ』に収録されているセンテンスは、実際に翻訳対象となる文書から抽出されたものなので、実務で通用する翻訳力を身につけるという目的に向けて、効率よくスキルを磨くことができました。

『イートモ』を使用したトレーニングでは、任意のキーワードで翻訳対象を絞った後、提示されたセンテンスを自分で訳し、次いで訳例と比較して訳文のクオリティを検討しました。

同時に、ニューラル機械翻訳ツール『DeepL』が出力した訳文の分析も行いました。翻訳作業の高速化を視野に入れて、機械翻訳のクオリティを把握しておくことが重要だと考えたからです。

さらに、センテンスごとの翻訳作業で得られた気づきを記録しておくことで、オリジナルの翻訳マニュアルを作成することができました。

以上のようなトレーニングをひたすら繰り返すうちに、翻訳のコツと機械翻訳の出力パターンが徐々につかめてきました。

翻訳とは、原文の情報を希釈して一段高い抽象度の情報を作り出し、それを再度具体化して訳文に落とし込む作業であることがわかると、置換処理と適切な翻訳処理との違いが明確になり、採用すべき翻訳アプローチが見出せるようになりました。

つまり、確度の高い訳文を生成するには、抽象と具体を往復する思考法を癖づけ、原文の情報をイメージとして頭の中で再現できるようにし、そのイメージをターゲット言語に適切な表現でアウトプットすることが肝要だということです。これは機械翻訳にはできない芸当であり、そうであるからこそ追及すべきアプローチだと言えます。

2020年7月-8月

実ジョブのシミュレーション

遺伝子工学についての学習をして専門分野の幅を広げつつ、請求項の適切な訳出方法など、特許翻訳特有のルールについて理解を深めた後は、納期を設定した実戦形式の翻訳練習を始めました。

実ジョブのシミュレーションは計3回行い、翻訳対象としたドキュメントはバイオ関連の特許明細書で、約7,000~約23,000ワード数のものを選びました。また、発明の名称から内容が具体的か抽象的かを推測できるので、両者とも翻訳対象にして、作業工程の違いや負荷のかかり具合などを確認しました。

シミュレーションでは、1時間ごとの処理速度を計測し、エクセルで記録をしました。そうすることで、特許明細書において訳出に時間を要するパートが浮かび上がり、加えて、1日の作業における集中力の変遷が可視化されました。

私の場合、訳文のクオリティを維持できる作業時間は8.5時間であることがわかり、この時間内で処理速度を可能な限り高めることが目標になりました。

実ジョブをシミュレーションする第一の目的は、実際に案件が依頼された場合に、可能な限りスムーズに対応できるように準備をしておくためです。常識的な範囲で納期を設定し、それを厳守するために生活を管理することから始めました。パフォーマンスを最大限に上げるためには、どの時間帯に何をすべきかを考え、試行錯誤しました。

シミュレーションとはいえ、納期内に納品可能状態まで翻訳文を仕上げることにより、翻訳でお金を稼ぐイメージをつかめたことは収穫でした。一方で、処理速度を高めなければ作業時間を増やすほかなく、それによって訳文のクオリティが下がる危険性を理解しました。

したがって、処理速度の向上のために、『PAT-Transer』等のツールの導入、作業スキームの最適化、検索ストラテジーの見直しなど、あらゆる角度からの改善を検討しました。

シミュレーションを重ねていくうちに、作業スキームが確立していき、効率が上がっていきました。例えば、翻訳に取り掛かる前の調査の深度が最適化され、また、チェック作業を見据えて翻訳中にどのような処理をしておくべきかが想像できるようになりました。

訳出スピードに関しても、センテンスの内容によって緩急をつけ、不必要に訳文の質を高めることを避けるなど、スループットの向上を意識するようにしました。以上のような工夫により、処理速度は、クライアントから求められる1日あたりの処理量2,000ワードに近づいていきました。

訳出を終えた後は、公開訳との比較を丁寧に行いました。特許明細書の公開訳は玉石混交であると言われますが、優れた公開訳をある程度選別できるようになると、公開訳が絶好の勉強素材となります。

文脈依存の多義語に対する訳し分けの精度の高さ、流暢性、指示代名詞の処理、明細書全体を俯瞰した訳出がなされていること等、参考にすべき事項は多くあり、それらをすぐに習得することの難しさがわかりました。

自分の訳文をこのようなSランク又はAランクのクオリティに近づけるべく、VISUAL THESAURUSを用いて多義語の概念を深いレベルで把握し、類似語の住み分けを明確にするなど、時間はかかるが本質的に意味のある作業を大事にする姿勢を身につけました。

2020年9月-10月

トライアル集中応募(第1弾)

講座を受講してから1年目を迎えるころに、年単位のスケジュールに則って、仕事を獲得するためのトライアル応募を集中的に行いました。

応募:7社
書類通過:4社
合格:3社 [特許翻訳(和訳):化学1社、産業翻訳(和訳):医薬1社、産業翻訳(英訳):分野指定なし1社]

書類選考を通過しなければ話にならないため、CVには実ジョブのシミュレーションデータを記載し、どの分野であればどのくらいの処理速度が出せるのかを応募先に伝えるなど、可能な限りの工夫をしました。

また、書類選考をしないでトライアル課題を送付してくれる翻訳会社もあるので、そういった応募先をリサーチし、課題を獲得しました。

課題は、CVでアピールした専門分野とは異なる分野のものが送られてくることがあります。私は特許翻訳のバイオを専門分野として謳っていましたが、半導体、通信、機械、有機化学、ビジネス文書といった、他分野の文章の翻訳を課題としてこなしました。翻訳会社が翻訳者に求めることは、どの分野でもクレームが来ないレベルで対処できることであると深く理解しました。

講座では、そのことを見据えて指導していただけるので、他分野の課題においても、出題意図を推測しながら落ち着いて対応することができました。

国内だけでなく海外の翻訳会社にも応募しました。英文のCVを作成するにはエネルギーを必要としますが、テンプレートを利用し、海外の翻訳会社のホームページから文章表現を真似ることによって、形にすることができました。

海外企業との取引には不安を感じるところもありましたが、何事も試してみなければ実態はわからないので、あまり躊躇せずに応募しました。

高校数学の学習

トライアルの書類選考期間や結果通知までの期間を利用し、高校数学の学び直しをしました。特許技術の中には、微分積分の概念を把握しておくと理解が進むものが多くあることを認識していましたので、時間を取って学習したいと考えていたからです。

また、トライアルではエネルギーを大量に使うので、空いた時間があったとしても翻訳練習をする気にはなれず、気分転換となるような作業を欲していました。そういった意味で数学は丁度良く、解を求める計算をひたすら行うことで、トライアルの結果がわからないもやもやとした気分が緩和されました。

2020年11月-12月

実ジョブを経験

トライアル合格後、契約を交わした1社から早速仕事の依頼がありました。そのクライアントは、産業翻訳のバイオ・メディカル分野の和訳案件を多く抱えており、私は、主に添付文書、取扱説明書、及びマーケティング文書の翻訳又はチェックを請け負いました。実際に翻訳でお金を稼ぐ経験をし、ステージの変化を感じました。

仕事をする過程で、プロジェクトマネージャーとのやり取りや、指定された納品方法及びスタイルガイドの遵守など、実務上必要な作業に慣れていきました。実務では、クライアントから使うように指示された翻訳支援ツール(Memsource)で案件を処理することもあり、臨機応変な対応が求められました。なお、業務上の必要性を考え、この時点で翻訳支援ツールのmemoQを購入しました。

依頼された案件は、10,000ワード未満の短いものが多かったのですが、実ジョブに慣れて実績を増やしていくには最適でした。実ジョブのシミュレーションをした甲斐もあり、慌てることなく納期までに納品でき、それによってクライアントからも継続的に依頼される状態になりました。

ただし、依頼された案件を全て引き受けることはせず、勉強時間を十分に確保できるようにスケジューリングしました。

英訳練習

和訳翻訳者として応募しても、トライアルでは和訳と英訳の両方で課題を提出する必要がある場合もあります。私もそのようなトライアルを受けており、結果として英訳が評価され登録に至ったのですが、それまで英訳の練習はしてこなかったので、実務に対応できる英訳スキルを早急に身につける必要がありました。

英訳に慣れるには、実際に英訳を多く行うしかないので、特許公開訳を利用した対訳練習や『イートモ』でのトレーニングを行い、メモリと用語集を強化していきました。また、専門領域の拡張を目的とした勉強の過程において、勉強内容を英語で表現してブログ記事にまとめる練習もしました。

展示会参加

講座受講前に、技術関連の展示会とはどういうものであるかを確認するため、『JASIS』に参加したことがありました。展示会の華やかさに心が躍りましたが、当時は背景知識がなかったので、展示製品がどのようなものか全くわからず、居心地の悪さを感じていました。

理系科目の知識をつけ、バイオ・メディカルを専門分野として設定するようになった今、レベルがどのくらい上がったかを実感するために、情報収集を兼ねて再度展示会に参加することにしました。今回は『JASIS』ではなく、専門分野により焦点を合わせた『再生医療EXPO』に行き、翻訳に必要な情報を得ることにしました。

展示会では、製品の外観や手触り等、インターネット上では得られない情報を積極的に集めました。特許明細書の実施例等に登場する多種多様な実験装置やキットに関する翻訳を、自分の五感を通じて得た情報を基にして行えるようにしたいと考えたからです。

各ブースを訪問する際には担当者と会話する機会もあり、専門的内容を話すことができている自分を発見できたほか、依然としてレベルが足りていないことも実感できました。その過程で、ソースクライアントが翻訳者に対してどのような印象を持っているのかをそれとなく理解することができ、考えさせられることがありました。

展示会におけるセミナーでは、業界で注目される技術が説明されていたので、技術動向はもとより、フォローすべき研究者についても把握することができました。最新情報はインターネット上にはなく、リアルの場で手に入れるしかないと再認識しました。

展示会参加の副次的な目的として、翻訳案件を受注するための営業があり、ソースクライアントから案件を得る可能性を探りました。結果として、潜在的なクライアントと名刺を交換することはできましたが、その後のアクションには至っていません。

そのクライアントは海外の企業で、日本市場への参入を試みていましたが、製品カタログが日本語ではなく、製品訴求がうまくなされていませんでした。私がそのカタログを翻訳できることを伝えると、担当者は本国の責任者に伝えておくことを約束してくれました。

結果的に受注には至っておりませんが、ソースクライアントから直接的に案件を受注するヒントが得られました。

2021年1月-2月

トライアル集中応募(第2弾)

応募:8社
書類通過:2社
合格:1社 [特許翻訳(和訳):医薬/化学1社]

新たな得意先の開拓を目的として、トライアルの応募を再開しました。実績として実ジョブの経験とトライアル合格歴を記載できるようになったので、応募条件が比較的高い翻訳会社に応募してみることにしました。しかし、それほど甘くはなく、書類通過には至りませんでした。

また、求人媒体に掲載されている募集に応募するものの、こちらも書類通過できませんでした。積極的に募集をかけている求人には多くの応募者が集まってレッドオーシャン化するので、経験が浅い翻訳者は相対的に不利になるかもしれない、という洞察が得られました。

したがって、まずは実績を増やすことを第一に考え、それと同時に、広告宣伝に積極的ではないように思われる翻訳会社へアプローチするようにしました。このアプローチが功を奏し、1社からはトライアル応募後すぐに課題が送られ、持続可能なレートで登録することができました。

実力強化

トライアル応募を通じて、自分の実力が依然としてトライアルに確実に合格できるレベルには達していないことを認識できたので、言語変換における基礎力を底上げするための練習をしました。

広く知られている書籍『翻訳の布石と定石』をまだ読んでいなかったので、これを機にこの書籍を用いて翻訳作法を学び直しました。データベースに訳例を蓄積しつつ、エクセルで一覧できるようにして、実務で使いやすいように書籍の内容を加工しました。

専門分野についてもさらに深堀する必要性を認め、最新の技術動向をリサーチして、理解が浅い領域について学習しました。この際、トライアルの面接等において専門分野についての質問がなされた場合に、十分にその分野に精通していることをアピールできるように、調査した内容を編集して、質問に回答できる態勢を整えておきました。

また、専門性を高めるために、日本生化学会に入会して学会誌を読み始めました。学会誌からは最前線の研究内容を知ることができるほか、文章が洗練されているので、分野特有の言葉の使い方を適切に身につけることができました。

加えて、少し背伸びをする形で特許実務に関わる知識の獲得に努めました。トップレベルの特許翻訳者として活躍するためには、特許明細書が書けるレベルまで実務の知識を有していなければならないと考えたからです。

そこで、弁理士の方が読まれるような、専門性の高い実務ノウハウ書を購入し、少しずつ読み進めることで、権利化及び権利行使に耐えられる明細書とはどういうものかを理解していきました。

サポート要件や明確性要件など、翻訳に関係が深い特許要件についての理解を深めていくと、訳語確定に対する意識を改めなければならないことに気づかされました。例えば、広い範囲で権利が取れるだろうからと、安易に抽象度の高い訳語を採用しても、明確性に欠け誤解が生じ得るので、等価な言語変換を徹底する必要性があることを理解しました。

その他、特許審査基準や特許事務所が記事化したコラムを読んで、ライフサイエンス分野の実務において知っておくべき事項を把握する時間を設けました。

2021年3月-4月

トライアル集中応募(第3弾)

応募:7社
書類通過:3社
合格:2社 [特許翻訳(和訳):医薬1社、特許/産業翻訳(和訳):医薬/医療機器1社]

実力強化月間を設けた後、その効果を形として反映させた翻訳サンプルを作成しました。それによって応募書類の説得力が高まったことを信じ、応募要件を満たす特許事務所など、比較的ハードルが高いと思われる求人募集に応募しました。

結果として、書類通過に至らなかったケースの方が多かったのですが、以前と比較すると書類通過率は向上しました。

好条件を提示する海外の翻訳会社のトライアルでは、もう一歩力が及ばず、非常に残念な思いをしました。しかし、別のプロジェクトで仕事を依頼する可能性を残してくれました。

一方で、新興の翻訳会社には登録でき、その会社が新規開拓をする際のトライアル突破要員として、持続可能なレートで起用されることになりました。

英訳練習

実ジョブとトライアルに割く時間以外では英訳練習に励みました。以前に自力で英訳練習をした際の疑問点をまとめて解決するために、関連書籍を購入し、一つ一つ疑問点を解消させていきました。

例えば、冠詞の使い方や、正しい動詞の選択、原文のリライトが許容される程度などは、多くの方が関心を寄せる事項であり、それらを解説する書籍が多くあります。しかし、情報を得ただけでは実際に翻訳ができるようにはならないので、実際に翻訳する量を増やすことを意識しました。

英訳を習得する第一の目的は仕事の幅を広げることですが、英訳の練習をすることで日本語の原文を注意深く読む癖がつくので、日本語を正しくアウトプットするための和訳スキルも同時に高められることに気がつきました。このシナジー効果に効率性を認め、英訳練習になるべく時間を割くようにしました。

2021年5月-9月

実ジョブ

以前に医薬分野の特許翻訳者として登録したものの、連絡がいっこうに来ないクライアントに対してメールをし、現在の自分の状況を伝えると同時に相手の状況を確認しました。

担当者からは、特許翻訳の案件が少なくて発注できずにいたことを教えていただき、論文翻訳であれば依頼したいという旨を伝えられました。私が受注の意思を示したことにより、継続して依頼をいただけるようになり、それにしたがって1ヶ月間における実ジョブ対応時間の割合を増やしていきました。

この翻訳会社は現在の私のメインクライアントとなり、プロジェクトマネージャーとも気持ちの良い関係を築くことができています。依頼案件はバイオ・メディカル分野の論文和訳であって、部分和訳を数件まとめた案件や、20,000ワード前後の長文案件です。

これまでに対応した案件の中で一番負荷が高かったものは、ある疾患を対象にしたガイドラインに関わる論文でした。内容は総論的色彩が強く、2週間の作業時間を与えられるものの、その間は休みなく、意識がある全ての時間を翻訳作業に費やしました。この経験は大きな成功体験となり、難しい案件が依頼されたとしても、正面から立ち向かえば何とかなるという自信をつけることができました。

このクライアントとの契約レートは持続可能なものではありますが、十分に高いとは言えません。しかし、納品物に対するフィードバックが丁寧で、チェッカーによるレビュー内容が非常にためになります。チェッカーの人件費がかからないような実力が身につくまでは、しばらくこの条件で取引していきたいと考えています。

メインクライアントのほかに2社と継続して取引し、産業翻訳と特許翻訳の和訳案件を受注しています。産業翻訳の案件では、体外診断用医薬品関連の添付文書や、医療機器の取扱説明書、マーケティング資料等を担当することが多く、経験を積んだ案件のシリーズにおいては、1日3,000~4,000ワードほどの高速処理ができるようになりました。

しかし、単調な作業が多くやりがいを感じるのが難しいところもあり、論文和訳とは異なるストレスがあります。稼ぐには効率が良いのですが、頻繁に依頼されるわけではないこともあり、タイミングが合えば気分転換に受注するようにしています。

特許翻訳の案件においては、機械、通信、電機、化学、医薬など、様々な分野の和訳が依頼される状態です。自分の専門分野とは異なる案件についても、タイミングが合えばなるべく引き受けるようにしています。

同じ分野にリソースを集中投下できないので、稼ぐ面では非効率的ですが、それでも受注する理由は、スキルの裾野を広げて対応力を向上させることが現段階では重要だと考えるからです。

対応した案件に関する分野の学習

1ヶ月間における実ジョブ対応時間の割合を増やしたとはいえ、月の3分の1は、学習に充てる時間を設けています。学習内容は対応した案件に関わる事項にして、知識の定着を図り、今後依頼される可能性が高い類似案件に備えるようにしています。

論文和訳の案件は臨床試験に関するものが多いので、翻訳するのに十分な範囲で統計や薬事申請周りの勉強をしました。これによって医薬翻訳へシフトする道筋が見え始めたので、現在は『イートモ』制作者である成田氏のブログをフォローして、医薬品インタビューフォームの英訳練習をしています。

英訳をする際には、AIを利用した翻訳手法の研究をしています。具体的に言えば、原文をプリエディットしてAIが認識しやすいようにし、出力内容を確かめてAIの癖を把握することで、高速処理の可能性を探っています。

原文をリライトするには、規範となる典型的な言語変換パターンを大量に知っていなければならないので、『イートモ』の例文をなるべく多く読むことを心掛けています。

専門分野以外の案件では、5G、半導体、機械関連の案件を受注しているので、それらの背景知識の学習や、特有の表現を対訳で収集するようにしています。

トライアル応募

応募:2社
書類通過:1社
合格:1社 [産業翻訳(和訳):医薬/医療機器1社]

求人情報は常にチェックするようにしており、チャンスがあれば応募して市場のニーズを確かめています。特許事務所の求人に応募しましたが、書類が通過しなかったので、まだ実績不足であることが客観的にわかりました。

そのほかに国内の有名翻訳会社に応募したところ、これまでで一番高いレートで契約することができました。仕事の打診はすぐにあり、継続して依頼をいただいておりますが、条件が悪くまだ受注には至っていません。

民法学習

技術に関連した仕事や学習のみであると、正直なところお腹いっぱいに感じてしまうので、デザート感覚で民法の学習を始めました。

大学では法学部に所属していたのですが、単位を取るだけの目的で民法の勉強をしていたので、学び直しをしたいと考えていました。

実社会に出ると民法の必要性を強く認識しましたし、仕事では、法学部出身ということで期待されることがあっても、その期待に適切に応えることができない苦い経験があったからです。登録をした翻訳会社からも、私の経歴を見て法務関連の翻訳をしてほしいというリクエストがありました。

民法の学習は、将来的に翻訳業の対応分野を増やすことにもつながり、民法の特別法である特許法を理解するのにも役立ちます。したがって、気分転換も兼ねて少しずつ勉強を進めることにしました。

参考書として内田貴先生の民法シリーズをメインに用い、各セクションの内容をデータベース上のカードに編集しています。加えて、我妻榮先生のダットサンで理解を深めるようにもしています。

民法の射程範囲は広く、学習には時間がかかりますが、少しずつ進めてきた結果、総則/物権総則/契約法総論を終え、現在は契約法各論の学習に至っています。

法律に関する文章を読むことによって論理的思考力が身につくので、翻訳にも応用することができ、シナジー効果を実感しています。

翻訳実績まとめ

2年間の実績は下記の通りです。
※NDAの関係から詳細は省略します。

トライアル応募:26社
→書類通過(書類選考がない場合を含む):11社
→課題突破(翻訳者としての登録):7社
・特許翻訳(和訳):化学/医薬
・産業翻訳(和訳):医薬/医療機器
・産業翻訳(英訳):分野指定なし

→実ジョブ依頼:5社
→継続取引:3社(和訳翻訳)
・論文翻訳:ガイドライン、医薬(臨床/非臨床)、分析法関連
・特許翻訳:機械、通信(5G)、化学(高分子材料)、電気(半導体関連)
・産業翻訳:添付文書(体外診断用医薬品)、取扱説明書/マーケティング資料(医療機器/医療関連ソフトウェア)