翻訳と作曲(学習記11/19-25)

先週は、『化学量・化学反応式』『溶液・個体の溶解度』について学習をしました。その中で結晶格子に関する単元があり、結晶と楽曲の構造に類似点を見つけることで理解を深めることができました。

私は過去にミュージシャンとして音楽活動に没頭していた時期があり、何か新しいことを学ぶ際は、音楽にまつわる知識に例えて物事を理解する傾向があります。この記事ではその精度を高める練習として、結晶と楽曲の構造、さらには翻訳と作曲の関係にも着目し、頭の中を整理してみたいと思います。

結晶と楽曲

結晶とは、原子や分子がある規則性を持って空間的に配列している物質です。

規則性を決定づける原子・分子による最小単位の構成は単位格子と呼ばれます。

結晶格子(黒枠)と単位格子(青枠)

つまり、単位格子が三次元に繰り返されることで結晶が形作られているということで、この構造は楽曲の作りを想起させます。

例えなので単純化して考えますが、楽曲の場合、一つ一つの音が小節というブロックの中に規則性を持って埋め込まれています。

1小節に音が規則的に配置されている様子

その小節が時間軸に沿ってパターンを伴って繰り返されることで、最終的に空間性を帯びた楽曲が生まれます。

注:あくまでも筆者の理解のための例えです

文章においても、一文一文がパラグラフを作り、パラグラフが組み合わさって立体的なストーリーが出来上がるという構造の性質では、楽曲の作りと似ているかもしれません。

そこで、文章を組み立てていく作業とも言える翻訳と、音を組み立てていく作業である作曲を同じテーブルの上にあげ、類似点を見出してみたいと思います。

翻訳と作曲

翻訳と作曲の共通項は、ある情報を頭の中にインプットし、別の情報形態に具現化しアウトプットする、一連のプロセスだと考えます。

英日翻訳の場合は、英文で表現された情報を、日文で表現し直すプロセス。

作曲は、ある心理状態(情報)を、音の連続で表現し直すプロセスと言えるでしょう。

作曲プロセスについてもう少し深く考えてみます。

作曲プロセス

ここでは私が過去に作り出した作曲フローに基づいてプロセスを説明します。上図はアイディアを見つけ、楽曲の形にし、世に出すまでの手順を簡略化して表しています。

はじめに、どういう曲を作りたいのかというインスピレーションを得るため、映画や本、風景などに触れ、自分の心を動かす必要があります。この段階をインプットとします。

次に、インプットにより生じた心理状態を音として表現する具現化の段階に入ります。

私の場合は、まずギターを弾いてその心理状態に合うコードを選び、それに基づいて曲を象徴するようなメロディを考えていきます。このメロディが「リフ」や「モチーフ」と呼ばれ、曲を構成する最小単位となります。ベートーベンの『運命』でいう「ダダダダーン」の部分です。

リフが決まった後は、曲全体の構成を考えていきます。

尺はどれくらいで、イントロやヴァース、コーラス、ブリッジ、アウトロなどのパートを用い、どうやってストーリー立てていくか。

私の場合は、影響を受けたアーティストの楽曲や小説の構成を分析したり、ある時は建造物の構成に着目し楽曲に取り入れたりしていました。

完成度の高い楽曲を聴くと、頭の中に立体性を帯びたイメージが浮かび上がります。そこで、その現象を逆に利用し、タージ・マハルのような建造物の構造に着目して、曲の構成をシンメトリーにしてみたりと、試行錯誤していました。

インド北部アーグラにあるタージ・マハル

そのようにして曲全体の構成が決まった後は、はじめに作成したリフを展開させて、構成に沿ったメロディを考えていきます。

ここまででギター1本による曲の骨組みが出来上がります。

この後は曲の世界観を増大させるため、シンセサイザーなどの他楽器で音色を増やし、また楽曲として成り立つようにドラムやベースでリズムをつけてアレンジしていきます。

アレンジが終わった段階で、各楽器の音量や音色を調整し、意図した世界観を最大限に表現できるようにバランスを取る、ミックス作業を施します。

ミックスの後は、最終的にリスナーがどのような形で曲を聴くのか、という視点を意識して音圧の調整を行うマスタリング作業をし、曲を世に送り出します。

翻訳プロセス

以上のように自己流の作曲方法について説明させていただきました。

現在、講座を通じて翻訳とはどういうことなのかを学んでいくうちに、作曲プロセスの各段階は、翻訳のプロセスにも通じるところがあるのではないか、と考えるようになりました。

インプットの段階では、翻訳対象の情報を正確に読み取り理解する作業。

具現化の段階では、理解した情報を訳語として確定させていく作業。及び文章を校正し、整えていく作業。

これらのプロセスを経て、成果物をアウトプットしていくことが翻訳作業だと理解しています。

質の高い翻訳を行うために

私は小学生の頃、テレビから流れてきたビートルズの『レット・イット・ビー』を聴き、そのコードの響きに魅了され、近くの図書館でCDを借り、お年玉でギターを買って音楽を始めました。

高校生の頃から本格的にバンド活動を開始し、大学を卒業する際に一念発起してプロのミュージシャンとして生計を立てる道を選びました。

同じ大学で一緒に演奏していたバンドメンバーはそれぞれ大手企業に就職し、レールを外れた自分はまるで崖から飛び降りたような気分でした。

月額1万9千円の賃貸アパートに住み、アルバイトを複数掛け持ちしながら機材を購入し、ギターを弾きながら気絶するように寝る生活が続きました。

しかしその中で、かけがえのない出会いに恵まれたり、芸術作品の素晴らしさをほんの少し理解できるようになったり、何かを作り出すことに喜びを感じられるようになりました。

私が作曲をする上で心がけていたことは、質の良いインプットを多量に行うということです。

人を感動させるような曲を作るには、まず自分が何かに感動した経験がなければなりません。

歓喜、絶望、正義、悪、心が動かされる事象は世の中に多くありますが、それに気付けるかどうか。過去の偉大な芸術家が残した作品からメッセージを読み取れるかどうか。その情報から得た心理状態を一定期間保持して消化できるかどうか。

そのためにはどうしたら良いか。

日々、感性を磨き続けるしかありません。

このことを特許翻訳に置き換えてみます。

発明者が言いたいことに気づいているか、その発明はどのくらい世の中にインパクトを与えるか理解しているか、発明に至る背景にはどういった苦労があったかと寄り添うことができるか。

特許明細書からの情報を深くインプットし、理解していなければ正確な翻訳はできないと教わっています。

そのためにはどうしたら良いか。

日々、勉強し続けるしかありません。

この記事を書いている内に、20代の頃の熱い気持ちが蘇ってきました。

過去の自分に負けるわけにはいけません。

シートベルトを締め直し、引き続き学習に励んでいきたいと思います。